言葉を知る15
前回に続き、間違いやすい日本語などを少しご紹介させていただこうと思います。
■埒があかないの語源
「埒(らち)があかない」というと、どうしようもないとか、手の打ちようがないという意味ですが、この「埒」というのは何なのでしょうか?
「埒」というのは、仕切りという意味で、馬を囲う柵のことを「埒」と言っていたようです。
そして、競馬のスタートの柵が開かないと、何もできないということから、「埒があかない」が八方塞がりとか、どうしようもないという意味となったということです。
さらに、「不埒」という言葉があります。
これは、「埒」の仕切りや柵が転じて、規制や境目という意味を持つようになり、その規制を超えるということから、ルール外のことをしたり、淫らなことをするという意味になったようです。
かなり無理があるような解釈ではありますが、これが語源として有力な説です。
よく耳にする言葉のわりに、「埒」という言葉の意味が分からないという方も多くいらっしゃると思いますので、覚えておくと良いでしょう。
■捺印と押印
以前、「印鑑」はハンコによって押された印で、「ハンコ」は道具を指すということを書きましたが、「捺印」と「押印」の違いは何なのでしょうか?
どちらも、ハンコを押すという意味では同じですが、「捺印」は署名の横にハンコを押すことで、「押印」はそれ以外の決められた箇所にハンコを押すことです。
両方の印鑑をお願いする場合は、「捺印と押印をお願いします」と言うのも相手が混乱するので、「指定した場所に押印をお願いします」で良いかと思います。
さらに、「捨印」や「割印」、「契印」という言葉もあります。
「捨印」は、契約書などに前もって欄外にハンコを押しておくことです。
この「捨印」は、文書の訂正があった時に、訂正印として使用するために予めハンコを押しておくものです。
「契印」と「割印」は、どちらも契約書などが複数のページになる場合に、2枚に半分ずつになるようにハンコを押すことですが、「契印」と「割印」は違いがあります。
「契印」は契約書などが複数ページになる場合に、連続性を示すために押されるハンコです。
「割印」は、相手と自分の書類が、同じ契約書であるということを示すために、原本と写しに押されるハンコです。
印鑑の話はまだあり、「実印」や「認印(みとめいん)」というものもあります。
「実印」は、印鑑登録をして法的効力を持つ印鑑のことです。
「認印」は、宅配便を受け取った時に使うような、印鑑登録をせずに使う印鑑のことです。
「認印」は、シャチハタでも構いませんが、シャチハタは実印としては使えません。
シャチハタというのは、朱肉を使わなくても押せるハンコですが、ゴム製で変形してしまう可能性があるため、印鑑登録はできないようです。
印鑑周りの言葉は、色々とあってややこしいですが、ビジネスなどでハンコを使う場合は覚えておいた方が良いでしょう。
これからデジタル化が進んで、ハンコを使う機会が減ってくるかもしれませんが、まだまだハンコを使うところも多いので、ハンコを使うことが多いという人は、注意していただければと思います。
■同音で意味の異なる漢字
以前も書きましたが、続きとして、同音で意味の異なる漢字を少しご紹介させていただきます。
「履く」、「穿く」の違いは、「履く」は靴下や靴など足に履く時、「穿く」はズボンやスカートなど主に下半身に身につけるものを穿く場合に使います。
「共に」、「供に」、「伴に」の違いは、「共」は同じとか一緒という意味なので、「共に行動する」という使い方になります。「供」は従者という意味が強く、「お供する」という使い方をします。
「伴に」という言葉は正確には正しくありませんが、間違いというわけではなく、「共に」と同様の使い方でも良いようです。ただ、伴侶という字にも使われていますので、「伴に生きていく」という時に使うと良いかもしれません。
「混じる」、「交じる」の違いは、「混じる」は絵の具が混じるなど、元のものが分からなくなるような場合に使い、「交じる」はグループに別の人が交じるなどのように、交じっても元のものが区別できる時に使います。
「勧める」、「薦める」、「奨める」、「進める」の違いは、「勧める」は運動を勧めるなど、行動を勧める時に使い、「薦める」は新商品を薦めるなど、物を他人に薦める時に使います。
「奨める」という字はあまり使うことはないかもしれませんが、「勧める」と同様のようです。
「進める」は歩を進めるなど、前進するという意味になります。
「暖まる」、「温まる」の違いは、「暖まる」は気温が上がって暖かくなった時、「温まる」は火などで熱して温度が上がった場合に使います。
「治す」、「直す」の違いは、「治す」が病気を治す時、「直す」は壊れた物を修理する場合などに使います。
「生長」、「成長」の違いは、「生長」は植物が育つ時、「成長」は動物が育つ時や、物事の規模が大きくなる時に使います。
「追求」、「追及」、「追究」の違いは、「追求」は利益を追求するなど、手に入れるために求める時に使い、「追及」は嘘を追及するなど、責任や嘘を問いただす時などに使います。「追究」は科学を追究するなど、学術の研究を深く行う時などに使います。
「制作」、「製作」の違いは、「制作」は絵画やソフトウェアなどを作成する時、「製作」は工芸品やハードウェアなどを作成する時にに使います。
「取る」、「摂る」、「採る」、「執る」、「撮る」、「捕る」の違いは、「取る」は手で物をつかんだり、手に入れる時に使い、「摂る」は栄養を摂取する時に使います。「採る」は人材を採用する時や、植物を採る時に使い、「執る」は指揮を執るなど行動をする時に使います。「撮る」は写真や映像を撮影する時に使い、「捕る」は虫などを捕まえる時に使います。
「街」、「町」の違いは、「街」はにぎやかな繁華街の意味を持ちます。「町」は市や村と同様に地域を分けるための単位の意味もありますが、繁華街以外は「町」を使えば良いでしょう。
「捕らえる」、「捉える」、「囚える」の違いは、「捕らえる」は犯罪者を取り押さえる時などに使い、「捉える」は要点を捉えるなど、物事をしっかりつかむという意味です。「囚える」は拘束することで、牢屋に囚えるのように使います。
「建てる」、「立てる」、「点てる」の違いは、「建てる」は建物を建てる時、「立てる」は物を垂直にする時や、男を立てるのように立派にするという意味などで使われます。
「点てる」は、「お茶を点てる」のように使いますが、基本的に茶葉を粉状にしてお湯に溶かして飲む場合は、「お茶を点てる」という言い方をしますが、茶葉から抽出したエキスだけを飲むお茶の場合は、「お茶を入れる」というのが正しいようです。
「持つ」、「保つ」の違いは、「持つ」は手に持つ時、「保つ」はある状態が持続する場合に使います。
「硬い」、「固い」、「堅い」の違いは、「硬い」は「石が硬い」や「表情が硬い」など、外部から力が加わっても形が変わらないような時に使います。「固い」は「団結が固い」や「頭が固い」など、変化しにくいとか結びつきが強いという意味になります。「堅い」は「守りが堅い」や「義理堅い」など、丈夫でしっかりしているという意味になります。
「十分」、「充分」の違いは、「十分」はコップに水が十分あるなど、数量的に満ちている場合に使い、「充分」は充分に満足したなど、感情的に満ちている場合に使います。
「川」、「河」の違いは、「河」というのが中国で大きな川として使われることが多く、日本の川にはあまり「河」の字は使われていません。ちなみに「河川」は「河」と「川」を総称したものです。
「皮」、「革」の違いは、「皮」が動物の表面の皮膚のことを指し、「革」は製品に使用するために加工されたものに使います。
「災い」、「禍」の違いは、「災い」は地震や火山など防ぎようのない天災に使い、「禍」は戦争や汚染など人為的によって生じた大きな被害に使います。
日本語は同音で意味の異なる漢字が非常に多く、ややこしいですが、少しでも覚えておくようにしましょう。