言葉を知る10
前回に続き、間違いやすい日本語などを少しご紹介させていただこうと思います。
■不可能を可能にすることは可能なのか?
よく「不可能を可能にする」という言葉を耳にしますが、私はこの言葉に少しひっかかります。
不可能というのは、実現確率が0%のことをいうものであり、それを可能にすることができるのであれば、それは最初から不可能とは言わず、可能性が低いと言うべきだと思うのです。
つまり、可能になるという時点で、成功確率が0%ではないわけであり、それは不可能とは言わないはずなのです。
まぁ、誰もできないような難しいことを知力や自分の気力で成し遂げることの誇張表現として、「不可能を可能にする」と言っているだけかもしれませんが、日本語を正しく理解するなら、「不可能を可能にする」ことは不可能と覚えておいた方が良いかもしれません。
■一生懸命とは何か
最近よく耳にする「一生(いっしょう)懸命」ですが、元々は「一所(いっしょ)懸命」という言葉からの派生語です。
「一所懸命」という言葉は、戦国時代などで一つの場所を命がけで守るというところから、一つの所に命を懸けるということで、「一所懸命」という言葉ができました。
この「一所懸命」を「一生懸命」と勘違いする人が多く、また、一つの場所に命を懸けるのではなく、仕事やスポーツなどを頑張っているという意味で、意図的に「一生懸命」という言葉を使っているという人も多くいらっしゃるようで、「一生懸命」という言葉も現在ではよく使われる言葉となりました。
ただ、「一生懸命」という言葉も、命を懸けるという単語がある以上、あまり軽々しく使って良いものではないとは思うのですが、近年は単に頑張るという意味で使う人も多いように見受けられます。
言葉は時代と共に変化するもので、気軽に「一生懸命」という言葉が使われるようになってきておりますが、本来の意味はよく覚えておくようにすると良いと思います。
■憮然としているの意味
「憮然(ぶぜん)としている」というと、皆さんはどういう意味で解釈しておりますでしょうか?
「憮然としている」というと、動揺せずに落ち着いているとか、しっかりしているという意味と思っている方も多いかもしれませんが、正しくは、失望して呆然としているという意味です。
恐らく、「毅然(きぜん)としている」の意味が、落ち着いているとか動じないという意味ですので、そちらと誤解しているのかと思います。
「彼は、父親の死の報告を聞いて、憮然としている」
という例だと、彼は報告を聞いても動ぜず落ち着いているという意味ではく、驚いて呆然としているという意味になります。
ただ、「憮然」という言葉は、腹を立てた様子という意味で勘違いしている人の方が多いようです。
「ぶぜん」という読み方からそう思っている人が多いようですが、こちらも間違いです。
間違って使っている人が多いと思いますので、覚えておくようにしましょう。
■おもむろにの意味
「おもむろに」は、皆さんどのような意味で解釈しておりますでしょうか?
「おもむろに」は、唐突にとか、急にと思っていらっしゃる方が多いかもしれませんが、こちらも間違いです。
「おもむろに」の正しい意味は、「ゆっくりとした動作で」という意味になります。
漢字で書くと「徐に」と書き、「徐行」という言葉からも「ゆっくりと」ということが分かります。
「祖母はおもむろに腰を上げ、居間から出ていった」
という例だと、祖母が前触れもなく急に腰を上げて、と誤解する方が多いと思いますが、正しくは祖母はゆっくりと腰を上げて居間から出ていった、という意味になります。
こちらも間違いやすい言葉ですので、しっかり覚えておくようにしましょう。
■にやけるの本来の意味
こちらは私も最近まで知りませんでしたが、「にやける」という言葉の本来の意味は、男性がなよなよしているとか、女々しいという意味だそうです。
「にやける」というと、男性が女性に対して少し下心が出てしまって、顔がほころびてしまうという意味だと思いますが、本来の意味としては正しくないということになります。
語源としては、大名などに仕える、顔の整った若い召使いのような人が、大名に愛想笑いなどをして媚びへつらう様子から、「にやける」が男性がなよなよしているという意味で生まれたようです。
しかし、時を経て「にやける」という言葉は、男性がよからぬことを想像して顔に笑みを浮かべてしまうというような意味となっています。
この「にやける」という言葉は、本来の意味が男性がなよなよしているという意味ですが、現在では意味が変わったと解釈して良いでしょう。
このように、言葉は時代と共に意味が変わってくるものではありますが、言葉の本来の意味や語源などを知ることは、正しい言葉を使う上でも大切なことと思われますので、知識として覚えておくと良いと思います。